8月20日発売の『AI白書2026』に先立ち、KADOKAWAが収録予定の独自調査の結果を公表しました。AI投資を増やす企業でも横ばいの企業でも、人員が「減少」する見込みは約14%で変わりません。
「AIに金をかけるほど人が要らなくなる」という筋書きは、少なくともこの調査からは出てきませんでした。
以下では、公開されている調査結果を読みます。そのうえで、この本に何が載る予定なのかを、公表ずみの目次と価格から整理します。先に基本情報を置いておきます。
「AI投資が増えれば人が減る」は、この調査では確認できなかった
今回公表された調査の名前は「企業における生成AI導入の投資・統制・成果実態調査」。『AI白書2026』に収録されるもので、発売に先行して結果の一部が出ました。
いちばん見出しになっているのが、AI投資と雇用の関係です。
| 今後のAI投資の見込み | 人員が「減少」する見込みの割合 |
|---|---|
| 増加 | 約14% |
| 横ばい | 約14% |
投資を増やす企業と、増やさない企業で、人が減る見通しが変わらない。 つまりこの調査の範囲では、AI投資は人員削減の先行指標になっていません。
理由の解釈まではプレスリリースに書かれていないため、ここでは踏み込みません。事実として言えるのは、「AI導入=リストラ」という説明が、日本の大企業を対象にしたこの調査では裏付けられなかった、ということだけです。
この数字は、310人の回答から出ている
調査の設計を先に押さえてください。ここを見ないと、数字を強く読みすぎます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査手法 | インターネットアンケート(マクロミル モニターパネル) |
| 調査対象 | 上場企業、または従業員300人以上の非上場企業に勤務する経営者・役員・管理職・一般社員 |
| 有効回答数 | 310件(スクリーニング調査 n=10,000 から抽出) |
| 調査時期 | 2026年4月24日〜25日 |
有効回答は310件です。 ここから「上場か非上場か」「管理職か一般社員か」で切り分けると、ひとつのグループは百数十件規模まで小さくなります。
その規模だと、数ポイントの差は誤差に沈む可能性があります。今回の結果でいえば、上場37.0%対非上場13.7%のような2倍を超える開きは動かしにくい一方、管理職46.5%と一般社員38.1%の8ポイント差は、もう少し慎重に扱うのが妥当です。
調査期間が4月24日〜25日の2日間である点も、頭の隅に置いてください。特定の時期の空気を切り取った断面であって、1年を通した平均ではありません。
なお、これは調査を否定する話ではありません。書籍本編には全31項目のグラフが載ると告知されています。効果測定手法と投資意欲の関係、導入ツール数と効果実感の相関、投資領域のランキング、ベンダー選定要素まで分解されるので、内訳は本を開けば確認できます。
総務省の白書と重ねると、日本企業の現在地が見える
この調査だけを見ても、日本企業がAIをどこまで使っているかは分かりません。そこで、2026年7月24日に公表された総務省『令和8年版情報通信白書』の企業向け調査と並べます。
| 指標(企業向け調査) | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 生成AIを一つ以上の業務で利用 | 86.4% | 90.9% | 91.6% | 98.1% |
| (参考)2024年度調査の同項目 | 55.2% | 90.6% | 90.3% | 95.8% |
| 生成AIの活用方針を策定済み | 68.9% | — | — | — |
日本企業の86.4%が、すでに何らかの業務で生成AIを使っています。 2024年度調査の55.2%から1年で31ポイント上がり、米国・ドイツとの差はほぼ消えました。
導入率で見るかぎり、日本は「遅れている国」ではなくなりました。
使ってはいる。組織で使ってはいない
差が残っているのは、その先です。
| 生成AIによる業務変革の取組状況 | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 全社横断的に事業変革に取り組んでいる | 21.5% | 35.6% | 20.7% | 40.9% |
| 組織的な取り組みはない | 27.0% | 1.4% | 4.9% | 2.6% |
「組織的な取り組みはない」が日本だけ27.0%。米国の1.4%、中国の2.6%と桁が違います。
環境整備の項目でも同じ形が出ます。「生成AIに社内データを学習させたり、参照可能なデータベースを構築したりしている」は日本24.5%に対して中国73.0%。「業務プロセスの見直しに必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」は日本39.9%に対して中国71.7%です。
日本で最も使われている用途が「議事録・メール作成補助」で約7割、というのも符合します。個人の手元の作業が速くなっているだけで、業務の形は変わっていない。
この構図は、KADOKAWAの調査が示した「定量的に効果を把握している企業は上場でも37.0%」という数字と、きれいに重なります。測っていないから、業務を作り替える判断まで進まない。
実務にいちばん効くのは、シャドーAIの数字
見出しは雇用の話に集まりましたが、明日から動かせる材料はこちらです。
シャドーAIは、会社が公式に認めていないAIツールを業務で使うことを指します。
| 区分 | 会社の公式ツール以外のAIを使った経験 |
|---|---|
| 管理職(課長以上) | 46.5% |
| 一般社員(係長・主任以下) | 38.1% |
止める側であるはずの管理職のほうが、使っている割合が高い。 よくある「現場が勝手にやっている」という理解とは、向きが逆です。
さらに、ガイドラインとの関係が効きます。
| ガイドラインの整備状況 | シャドーAIの利用率 |
|---|---|
| 全社共通のガイドラインを整備済み | 46.9% |
| 一部の部署のみ整備 | 50.0% |
全社ガイドラインを整えても、シャドーAIは46.9%。一部整備の50.0%と、ほとんど変わりません。
ルールを配っただけでは止まっていない、ということです。
禁止で止まらないなら、使える公式の道を作るほうが早い
ここから読める打ち手は、規制の強化ではありません。公式ツールが業務に足りていないから、外のツールに手が伸びていると考えるほうが、数字の説明としては素直です。
あなたの会社でAIの利用ルールを作る立場なら、順序を入れ替えてください。禁止事項を増やす前に、「承認済みのツールで、その業務が実際に片付くか」を確かめる。管理職ほど使っているという事実は、業務側の必要が勝っている証拠として読めます。
情報漏えいのリスクが消えるわけではありません。公式の道が使い物になるほど、外へ出る理由が減る、という順番の話です。
上場と非上場を分けるのは、投資額ではなく測り方
同じ調査から、企業規模による差も出ています。
| 指標 | 上場企業 | 非上場企業 |
|---|---|---|
| 今後のAI投資が「増加」見込み | 80.1% | 50.0% |
| AIの効果を定量的に把握している | 37.0% | 13.7% |
| 全社共通ガイドラインを整備済み | 45.9% | 29.1% |
投資意欲の差は80.1%対50.0%で1.6倍。それに対し、効果を定量的に測れている割合は37.0%対13.7%で2.7倍の開きがあります。
差がいちばん大きいのは、金額ではなく測定です。そして上場企業でさえ、37.0%しか測れていません。
『AI白書2026』は、何が載る本なのか
ここまでが、発売前に公開されている調査部分です。本体は400ページあります。
発売前のため、本文そのものは読めていません。 ここから先は、公表された目次と告知にもとづく整理です。
監修は岩澤有祐氏と鈴木雅大氏、協力は東京大学 松尾・岩澤研究室。発行は角川アスキー総合研究所、発売はKADOKAWAです。
| 章 | 主な内容 |
|---|---|
| 第1章 | 北野宏明氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所)へのインタビュー |
| 第2章 技術動向 | 生成AIの概要/動画像生成と拡散モデル/LLMとTransformer/LLMの軽量化・高速化/安全性/フィジカルAI/AI時代の半導体と計算基盤/世界モデルと空間知能 |
| 第3章 産業の動向 | 拡大するAI市場と主要プレイヤー/国内AI開発企業の競争力/国内企業のAI利活用/中国のAI政策と主要企業/欧州のAI戦略と日本の立ち位置 |
| 第4章 法制度とガバナンス | 国外のAI規制と関連法/AI法の背景と概要/AIと著作権/AIガバナンス |
このほか、DX銘柄企業27社のAI取組事例が収録されます。フィジカルAIと世界モデルに章が割かれているのが今回の特徴で、この領域は日本の国家プロジェクトが動き出した分野でもあります。
前作から152ページ増えて、1,540円上がった
前作にあたる『AI白書2025 生成AIエディション』と並べます。
| AI白書2025 生成AIエディション | AI白書2026 | |
|---|---|---|
| 発売日 | 2025年3月1日 | 2026年8月20日 |
| ページ数 | 248ページ | 400ページ |
| 価格(税込) | 4,400円 | 5,940円 |
| 1ページあたり | 約17.7円 | 約14.9円 |
| 刷り | 2色刷(一部4色刷) | 1色刷(一部4色刷) |
| 監修 | 岩澤有祐 | 岩澤有祐・鈴木雅大 |
ページ数は1.6倍、価格は1.35倍。1ページあたりの単価はむしろ下がっています。
一方で、刷りは2色から1色(一部4色)に変わります。図表の見やすさは前作より落ちる可能性があるので、グラフを読む用途が主なら、店頭で中身を確認してから決めるほうが安全です。
前作は「生成AIエディション」と銘打った特別版で、章立ても生成AIに寄せた4章構成でした。今回は技術・産業・法制度を通しで扱う従来の構成に戻っています。
参考までに、このシリーズの主な版を並べます。
| 版 | 刊行 | 編・監修 |
|---|---|---|
| AI白書2017 | 2017年7月20日 | IPA(情報処理推進機構)編 |
| AI白書2019 | 2018年12月11日 | IPA編 |
| AI白書2020 | 2020年3月2日 | IPA編 |
| AI白書2023 | 2023年5月10日 | AI白書編集委員会(委員長・中島秀之氏) |
| AI白書2025 生成AIエディション | 2025年3月1日 | 岩澤有祐氏 監修 |
| AI白書2026 | 2026年8月20日 | 岩澤有祐氏・鈴木雅大氏 監修 |
編者はIPAから編集委員会へ、そして東大 松尾・岩澤研究室の監修体制へと移ってきました。発行が角川アスキー総合研究所、発売がKADOKAWAという座組みは初版から変わっていません。
デジタル・サブスクの中身は、発売日まで分からない
『AI白書2026』には、年4回の追加レポートを提供する会員サービスのお試し特典が付きます。
この「AI白書」デジタル・サブスクは2026年8月20日にサービス開始予定で、詳細は同日発表とされています。 料金・継続条件・お試し期間の長さは、現時点では公開されていません。
サブスク目当てで買うかどうかを決めたいなら、発売日の発表を待ってください。書籍そのものの内容で判断するなら、待つ理由はありません。
書籍
紙版と電子版が同時発売です。A4判400ページなので、持ち歩くなら電子版が現実的です。
5,940円を出す価値があるのは、どんな人か
公開情報から判断できる範囲で整理します。
向いている人
- 社内でAIの利用ルールやガイドラインを作る立場にいる。第4章のAI法・著作権・ガバナンスと、独自調査の統制パートが直接効く
- AI関連の企画書や稟議で、出典を示せる国内データが要る。全31項目のグラフは引用元として使いやすい
- 中国・欧州を含めた各国の規制と企業動向を、1冊で横断して把握したい
向いていない人
- 生成AIの使い方を覚えたい。これは実務の手順書ではなく、動向をまとめた資料集です。目的別のツール比較から入るほうが早い
- 最新のモデル動向だけを追いたい。書籍は刊行の時点で情報が固定されるので、日々の更新は公式発表を追うほうが確実
前作『AI白書2025』を持っている場合は、章立てが4章構成から従来型に戻り、フィジカルAI・世界モデル・半導体の章が加わった点が買い替えの判断材料になります。
よくある質問
『AI白書2026』の発売日と価格は?
2026年8月20日発売、5,940円(税込・本体5,400円)です。A4判400ページ、ISBNは978-4-04-911298-6。発行は角川アスキー総合研究所、発売はKADOKAWAです。
電子版はありますか?
あります。紙版と同時発売の予定です。A4判400ページと大きい判型なので、持ち運んで読むなら電子版が扱いやすくなります。
独自調査の結果は、書籍を買わないと読めませんか?
主要な結果はプレスリリースで公開されており、無料で読めます。書籍本編には全31項目のグラフが収録される予定で、効果測定手法と投資意欲の関係・導入ツール数と効果実感の相関・投資領域のランキング・ベンダー選定要素といった内訳まで見たい場合は書籍が必要になります。
「AI投資と人員削減は直結しない」は、どこまで信じてよい数字ですか?
有効回答310件、調査期間は2026年4月24〜25日の2日間、対象は上場企業または従業員300人以上の非上場企業の勤務者です。中小企業は対象に含まれていません。日本の大企業における2026年春時点の傾向として読むのが適切で、企業規模を問わない一般則としては扱えません。
出典
- 8月20日発売『AI白書2026』独自調査「企業における生成AI導入の投資・統制・成果実態調査」を発表(株式会社角川アスキー総合研究所 プレスリリース、2026年8月10日)
- AI白書2026 商品ページ(KADOKAWA)
- 令和8年版情報通信白書(概要)(総務省、2026年7月)
- 東大 松尾・岩澤研ら第一人者が徹底解説『AI白書2025 生成AIエディション』発刊(角川アスキー総合研究所)
- AI白書(IPA 独立行政法人情報処理推進機構)
※本記事の価格・仕様・発売日は2026年8月14日時点で各公式ページに掲載されていた情報です。会員サービスの詳細は発売日に発表予定とされており、本記事では扱っていません。書籍リンクにはアフィリエイトプログラムを利用しています。